(クソっ、さっき寝たばっかじゃねえか、、、クソ眠いぜ!)
けたたましい目覚まし時計のアラームとそれに混ざった電話のべルの音で起こされた。
急いで電話に出ると、聞き覚えのある声である。
「わ、わかりました。今行きます」
重い瞼をなんとか持ち上げて、ササッと顔を洗い、鏡を見ながら髪を整える。
シャワーを浴びたいけど、そんな時間はない。
誰か分からない人にもらった香水を噴霧して、
(まあ、昨日1日頭を洗ってないけどなんとかなるか)
ラフにTシャツを着て、ジーパンを履いてスニーカーをつっかける。
(まだ5時じゃねえか、、、)
昨日は仕事が長引いて、結局家にたどり着いて、ベッドに倒れ込んだのはほんの1時間前。目をつぶった次の瞬間に、巨大な騒音でたたき起こされた。
まだこの時期は5時でも当然真っ暗。えらい寒いなと思ったら、Tシャツにスエットを羽織っただけだった。
慌てて、迎えのバンに乗り、そのまま現場へ。
車の中で用意されたおにぎりをほおばり、お茶を口に含んだ。時々むせそうになりながらも、コメをかむことで徐々に目が覚めてきた。
30分くらい乗っていただろうか、1個食べ終わったところで、車の揺れでうつらうつら夢の世界に引きずり込まれそうになったところで、いきなりの急ブレーキで起こされた。
「着いたぞ」
という声とともに、バンの扉が乱暴に開いた。見覚えのある無機質な建物が目の前に立ちはだかった。
(仕事だぞ!頑張れ、俺!)
車を降りた瞬間から、公然の目に晒される。
かばんを手につかみ、そのまま建物の中に入ると、目があった人に片っ端から挨拶された。面倒なので、顔を伏せて歩こうかと思ったこともあった。別に気持ちのこもった挨拶でもなく、逆に自分を小ばかにしたような雰囲気さえ覚えたのは考えすぎだろうか。
(ちくちょうっ)
そう言いたい気持ちをグッとこらえて、思い切り笑顔を作って挨拶した。
「おはようございます」
聞こえた自分の声はなんか上ずっているけど、でも仕方がない。わざとらしいけど、自分はそんなに器用じゃない。この世界では、こういうことは常識なんだ。
指定された部屋に入ると、いつものメンバーがいた。
「おはよう」
って挨拶したものの、こっちをちらっと見てはまた雑誌を読んでいる。もう一人は携帯ゲームに夢中だ。
(いいんだよ、朝早いんだから。)
(それに、自分の世界を邪魔されたくないのは俺も同じだし)
そう自分で思い込ませた。
それから、しばらく待たされて、そろそろ退屈してきた頃に、全員で大きな部屋に通された。
まるで照明が真夏の太陽がガンガンに照りつけているかように暑い。
おまけに、人がワンサカいて、キャーキャーうるさくてたまらない。こいつら、何をはしゃいでいるんだ。
ふと何人かが自分の方を見ているのに気づいた。そして、その口の動きから自分に対して何を言っているのか読み取れた。
「さえないね、、、」
「いまいちね」
(なんだよ、それっ)
でも、そう言われているのがわかっても、笑っているしかないし、3枚目を演じるしかないのだ。
(仕事だよ、仕事)
午前中はとにかく自分の体にムチ打って、壁を登ったり玉を投げたりした。
まともに寝てないから、体が思ったように動かない。
(きつい、きつい)
でも、ほかの連中はそんなつらそうなことを顔に出さずに、フェイクスマイルでやっている。
(たいした連中だよ)
(いったい何が楽しいんだよ)
(歳を考えろ)
冷静になればなるほど、グチが頭に浮かんでくる。そんな自分がだんだん嫌になってきた。
仕事も終わりにさしかかった。へとへとになって、終わった後の飯のことを考えていると、いきなりコメントを求められてきた。
(いきなり卑怯だぞ、何も考えちゃいねえし)
気の利いたコメントが浮かぶほど頭は冴えていない。仕方がなく、変顔してぼけてやった。周りがなんとなく笑ってくれているのを耳にして、とりあえずは胸をなでおろした。
(あとで文句を言ってやろう)
と、いつも言おうとするんだけど、やっぱ言えない。
その後も、午後から別の場所に移動して仕事だ。移動中のバンの中で昼食。いつもと同じ弁当だった。そして同じ連中、同じ食べ顔を見ながら、自分も口を動かしている。
(将来のあるやつはいいよな。)
(今の働き口がなくなっても、次の仕事が約束されているから。)
(俺は今でさえ危ないのに、このままあと数年この職場でうろうろして、なんとなく仕事をして、そして気づいたら思い切りおじさんになっていたら、、、そんな状態になってから、がんばろうと思っても無理だわ。あっという間にフェードアウトしちゃってるんだろうな。)
(普通の仕事もできないし、なんの特技もない。出歩こうにも、いつも人に見られてるし、絶対になんか悪口を言われてるし。)
(笑顔で近づいてきても、相手の腹の中なんてわかっているよ。ネットで自分のことを、さも珍しい生き物を見つけました風に書かれるんだろうな。)
ここのところ、毎日現場の行きかえりの車の中でそんなことばかり考えてしまっている。完全にネガティヴ思考。
好きだった子もいた。いや、正直今でもその子の顔が浮かぶと胸がキュンとなる。
でも、その子と付き合うなんてことは許されなかった。
(あれから、もう何年くらいになるだろうか、、、)
(普通の生活をしていたら、今頃自分はどんな生活を送っているのかな。すでに子どもがいて、キャッチボールなんかしているのかな。いや、やっぱ一緒に釣りに行ったりしてるのかな。)
「おい、なんかニヤついているぞ」
となりにいた仲間に思い切り妄想顔を見られてしまった。
(またあいつは、この話を誰かにするに決まっている。おしゃべりだからな。)
その日も結局仕事が終わったのは深夜。
身も心もボロボロの状態になって、ホテルに戻った。
こんな生活をすでに20年もしてる。思い返すと、何度かこの仕事を辞めるチャンスはあったと思う。でも、なかなかそうもいかなかった。
偉い大人たちが、自分の気持ちを察して先回りして、辞められないようにしてきた。
そして、この歳になり、いつの間にか立派なおじさんになってしまった。
自分もやっと大人になったんだ。
いつまでも子どもじゃねえんだから、、、
自分の腹は決まった。自分の人生だ、自分で自分の道を決めるんだ!
どうでしょうか?
彼はこうして仲間に、自分の思いを告げたのでしょうか?
嵐の活動休止、、、
大野君の思いを勝手に妄想してみました。
以上たーさんでした(終)
気分を害された方はごめんなさい。